kmuto’s blog

はてな社でMackerel CREをやっています。料理と旅行といろんなIT技術

最終出社日

本日で株式会社トップスタジオ https://www.topstudio.co.jp/ の勤務を終え、これから有給消化に入る。

SIerからの転職で1999年に入社し、3年くらいかなーと思っていたのが5年となり、10年となり、……といつのまにかずいぶんと長く在籍していた。

仕事的には自由度が高く、先端の技術分野の書籍を制作しながら知識を得て血肉にすることができ、私にはとてもフィットする職場だった。同僚にも恵まれて楽しかったので、離れるのは寂しい思いがある。

トップスタジオで何をやってきたの?

長くいたこともあり、それなりに成果を積んできたとは思う。

  • 入社当初より、編集者として、各社のIT書籍の請負制作をしてきた。LinuxOSS、ネットワーク、セキュリティ、ソフトウェア工学、エンジニアリング、そして最近だと機械学習が多い。翻訳の監修や、執筆なども関連して担当。企画はあまりやっていない。
  • DTPは、同人誌レベルではいくつか趣味で作ってはいたのだけれども、Re:VIEWを使ったInDesign自動組版を設計して以降、本格的な業務を開始。オーム社さまやオライリー・ジャパン社さまの書籍でTeX組版も使うことが増えてきて、終盤はInDesignよりもTeXの業務のほうが多かった。
  • ネットワーク、サーバの管理も入社当初からの業務。ルータ+サーバ+デスクトップと兼用するDebian PC(K-6 CPU!)から始めて、ラックと1Uサーバ複数台による本格的なオンプレ運用、VPS+SaaSへの移行、さらにVPSを廃止してSaaSのみへの移行、と管理コストを下げるべく時代の変遷に従って大きく変えてきた。そもそも入社以来私自身がリモートワークしやすいようにVCSVPN等の環境を整備してきていたので、コロナ自体での業務混乱は少なかったと思う。「スマホしかない」という自宅環境の社員もちらほらいたのは少々予想外だったが。
  • 社内支援の開発。これも入社当初からで、はじめは社内の編集者向けのテキスト変換が主たる作業だったのが、DTPにも踏み込んだことでJavaScriptOSSImageMagick、Ghostscript、TeXMeCab、etc)等を使った各種データ変換・チェックツール・作業自動化といったところにも手を広げることになった。かなりDXの遅れている書籍業界だけれども、先駆的な手法や支援ツールをたくさん実現・実装してきたという自負がある。
  • 情報共有・コミュニケーション。作業情報が属人化しやすい業界なので、議事録はWikiに上げるのを強く要求し、案件記録やふりかえりも推奨してきた。「本来やってほしい人ほどやらない」という残念状態は予想どおりではあるが、それでも議事録などから探索したりすることが簡単になったので、メリットは大きかったと思う。お互いの理解が深まりづらい間(編集-DTPとか、生産-バックオフィスとか)を円滑につなげるような努力を払ってきたつもりで、部門や年齢の横断的なイベントとして、年末の納会では近くのキッチンルームを借りて皆で料理を作ったりもした。

オンプレ→VPS+SaaS移行で廃棄した1U群。安定動作ありがとう

納会で皮からの餃子作りパーティーを開催

次はどうするの?

書籍業界に長くいたけれども、次は別の業界。

有給は1ヶ月弱残っているものの、コロナ禍で海外旅行に行ける状況でもないし、年内のうちに早く慣れておきたいという判断で2週間程度と短め。ただ今月は引き継ぎで忙しかったし、有給中に少しくらい国内旅行も計画しておけばよかったな……と考えるともう少し長くしておけばよかったと少々後悔はなくもない。

Re:VIEW https://github.com/kmuto/review はどうなるの?

5.6.0を一昨日リリースしましたよ! 書籍制作支援システムのフリーソフトウェアRe:VIEWについては、個人的な趣味方向として続けるつもり。ただ、業務としてやっていないと「自分のニーズを叶えるもの」というモチベーションがわきにくいので、次の職でも何らかの形で使いたいと思っている。

思い出深い本

いろいろな本の制作に関わってきたけれども、がっつり私が担当して刊行済みの書籍としては編集が171冊、DTPが199冊だった(作業重複あり)。企画ではなく実制作という立場なので、同業比較では数がかなり多いほうになるとは思う。その中から思い出深い本をいくつか挙げてみる。

Debian GNU/Linux徹底入門』(翔泳社

Amazonのは第3版しかないんだけど、ここでは初版の話。

執筆本。前職在籍時に書いたもので、DTPはトップスタジオに依頼していた。その前から翻訳の監訳としてトップスタジオと関わってはいたけど、執筆した書籍を翔泳社の編集者さんと一緒に制作していく中で、こういう仕事はいいなと思い始めていた記憶。その後、トップスタジオに入社した。

第2版、第3版と続いたけれど、せっかくTeXで原稿を書いていたのに、DTP工程や商用DTPソフトウェアがバッチ的にできず一度プレインテキスト化しなければならない残念さには不満があって、いつか自分でDTPシステムも作って自己完結した制作にしたいという思いが強まっていった。

『My Job Went to India』(オーム社

編集と監修を担当。IRCでたむろしていたDebian系のメンバーで面白そうな技術書を監修してDebian JP運営やたん清しようず、というコンセプトで、「でびあんぐる」の名のもと、オーム社さまの『CVSバージョン管理システム―』を皮切りにいろいろなOSS技術の本の制作をやっていた。

当時オウム真理教の残滓があったこともあり、「オーム社で『でびあんぐる』はいかがなものか……?」とオーム社さまの社内で議論があったと聞く(その節はたいへんお手数をおかけしました)。

CVS本も印象深いのだけど、個人的に一番思い入れが深いのは『My Job Went to India』。英語タイトルとカバーのせいか世界的にもあまり売れなくて、改訂の『情熱プログラマー』のほうがよく売れたんだけど、私としては「My Job Went to India」という表題、冒頭のむせかえるインドの光景(卒業旅行でカルカッタやバラナンシーを巡っていたので目茶想像がつく)にとても衝撃的だった。

もちろんそれだけではなく、この本で示されているChad Fowlerの金言は、私の仕事におけるスタンスを定めてくれたように思う。「万能選手になろう」「スペシャリストになろう」「自分の人生を他人任せにするな」「師匠を探す」「一番の下手くそでいよう」「既に時代遅れである」「君は既に職を失っている」などなど……。

改訂の『情熱プログラマー』のほうは入手容易と思われるので、ぜひお読みいただきたいと思う。

『Code Reading』(毎日コミュニケーションズ

編集を担当。でびあんぐるでも大活躍されていたDebian鵜飼文敏さん、Rubyの父であるまつもとゆきひろさん、Wide Studio作者の平林俊一さん、と当時OSS系で最先端で走られていた豪華なお三方に監訳をしていただいた。

ボリュームのすごい本だったが、いろいろな良質のコードを読もうという本書の内容は示唆に富んでいて、制作していてとても楽しかった覚えがある。とはいえ、大量のページ参照でめげて同僚にやってもらった記憶もあったり……(今だったら絶対にTeXDTPしていたはず)。

カバーを外すと私が司会で監訳の皆さまとの対談集があるんだけど、気付いてくれた人はどのくらいいらっしゃっただろうか。

『ふつうのコンパイラをつくろう』(ソフトバンククリエイティブ

編集とDTPを担当。著者の青木さんの作品は『ふつうのLinuxプログラミング』『ふつうのHaskellプログラミング』でも編集を担当してきたのだけれども、毎回妙に整った形で弊社DTP用のマークアップに合わせて原稿を送ってくださっていたため、「何かシステム使っているんですか?」とお聞きしたのがRe:VIEW(当時review)との出会いとなる。

ちょうどDTPソフトのAdobe InDesignがようやく自動DTPに使えそうな機能(XML取り込みやJavaScript制御)の片鱗をかいま見せてくれて実験をしていた(それまで主流のQuarkは全然だめだった)のだが、あとはどのようなマークアップでコンテンツを表現したものか……と悩んでいたところに、reviewはまさにうってつけ、天啓だった。InDesign向けのXML書き出しや紙面表現に使いたいマークアップの追加などのreviewの機能向上作業を通して、Rubyを理解することにもつながっていった。

青木さんの執筆が遅延して、結局『独習Java 第4版』のほうが最初のRe:VIEW+自動DTPによる商業刊行となったのはご愛嬌。

ここからRe:VIEWInDesignを使ってたくさんの制作物を作ることになり、編集とDTPの両方の制作に対応するようになった。

『カンフーマック ─猛獣を飼いならす310の技』(オライリー・ジャパン

DTPを担当。オライリー・ジャパンさまとは『入門ソーシャルデータ』をRe:VIEWで作ることから始まり、その後Re:VIEWを使ってページ数の少ない翻訳書シリーズをEPUBのみ販売の形で多数作ってきたが、紙版+EPUBという両方を作った最初が、確かこのカンフーマック。

その後、2015年の『ハイパフォーマンスPython』でGreenChery社さんの協力のもとTeXによるDTPも始めて、VCS+CIによる高速プレビューも導入していった。

オライリー・ジャパン編集者の方々は今ではかなりRe:VIEWに慣れて、出版社では一番のRe:VIEWの使い手となっている。もともと私自身が編集者という立場から必要と思われる機能を入れてきたというのもあるし、共に制作をしていく中でご要望を受けて導入したものもたくさんあり、「これがない制作は考えられない」とおっしゃられるまでご愛顧いただいた。

最新の刊行物としては『大規模データ管理』と『初めてのGo言語』。このほかにあと2冊を制作途中で社内に引き継いでいて、刊行が楽しみだ。

 

新たな環境でも、成果を積んでいきたいね。